加齢や目の病気が原因で色の判別がしづらくなることを後天色覚異常といいます。
目には水晶体と呼ばれる、カメラでいうレンズのような働きをする器官があります。水晶体は生まれたときは無色透明ですが、有害光線から目を守るために加齢に伴って黄色に変化していきます。80代になるとビール瓶のような濃い茶色になる人もいます。
理論的にシュミレーションした画像のため、実際にこのように見えているとは限りません。
長い年月をかけて徐々に変化するため変化に気づきにくく、若い時の見え方のように脳が補正してしまっているのです。
理論的にシュミレーションした画像のため、実際にこのように見えているとは限りません。
これは高齢者の色覚の変化によって生じる極めて危険な例です。
青いガスコンロの炎は高齢者にとっては見えづらい色なので、炎が実際より暗く見え、大きさ自体が小さく見えてしまうことで、本当は安全でない範囲に手などを近づけてしまい、火傷や衣服に引火してしまうこともあります。
加えて高齢者では身体機能も低下しているので、火がついてしまった場合の対処が遅れ、通常より被害が大きくなることも考えられます。
また、上のシュミレーション画像では明らかな違いが分かりますが、高齢者自身は現在の自分の色覚に慣れており、脳で補正をしています。そのため20代のころと同じように見えていると感じています。
照明を明るくすることでこうしたリスクはずいぶん解消できますが、それでも改善されない場合は白内障にまで進行している可能性があります。
多くの網膜疾患においては、錐体も障害を受けて機能するものの、数が減っていきます。錐体細胞はその色素の種類によってL、M、Sと区分されていますが、その分布をみてみると、L錐体やM錐体の数に比べてS錐体の数が少なく、全体のわずか数%しかないことがわかっています。そのためS錐体は障害を受けやすく、結果として青黄色覚異常が起こってくるのです。
もうひとつ同じような症状の色覚異常を引き起こす疾患として、緑内障があります。
緑内障は、主に眼球の内圧(眼圧)が上昇することにより発生しますが、この眼圧が錐体細胞に関わる神経細胞に影響を与えます。神経細胞が大きいほど眼圧の影響を受けやすいのですが、S錐体に関わる神経細胞は特に大きいため障害されやすく、青黄色覚異常になると考えられています。私たちの最近の研究では、中心部においてはL、M錐体も影響を受けており、視力の低下はなくてもL錐体、M錐体の機能も低下していることがわかっています。
網膜疾患も緑内障も、初期にはまず青黄色覚異常の症状があらわれてきますが、さらに病状が進行するとL錐体やM錐体の機能にも影響がおよび、赤緑色覚異常の症状も加わってきます。そしてさらに進行すると最終的にはほとんどの色の識別ができなくなります。
目から脳にかけての情報の通り道である視神経に疾患があると、赤緑か青黄もしくはその両方の情報がうまく伝わらず、結果的に赤緑色覚異常や青黄色覚異常といった症状があらわれてくることがあります。
緑内障を除く視神経疾患においては赤緑色覚異常の割合が多いとも言われていますが、同時に青黄色覚異常も伴うことがやはり先天色覚異常とは異なる特徴となります。
脳において色を判断する機能をつかさどっているのが、後頭葉と呼ばれる部位です。
この後頭葉の下部に脳梗塞などの異常が生じることで色覚異常が引き起こされることがあります。
具体的な症状としては、他の視覚機能は保たれたまま、見ているものすべてがモノクロになってしまうというようなことが起きてきます。
精神的なストレスから視力に障害が出て、視覚にも異常が生じることがあります。小さな子どもに多く起こりますが、成人でもヒステリーなどの精神症状を伴ってあらわれた例があります。
発達期の女の子に頻度が高いといわれていますが、先天色覚異常が女性にあらわれる確率は0.2%(500人に1人)と極めて低いため、心因性要因が多く考えられます。(関連:
色覚異常の遺伝)
女性に先天色覚異常があらわれるのは、父親も生まれつきの色覚異常であり、かつ母親も同様の色覚異常、または正常であるが保因者の場合です。しかし、心因性の色覚異常は遺伝的な要因とは関係なく後天的に起こるものですから、専門の眼科医を受診し正確な診断を受けることをお勧めします。
後天色覚異常の多くは視力や視野の低下など、より重篤な視機能の低下があります。治療法は、その原因となる疾患を治すことで原因によって異なりますので、異常が判明した場合は放置せずに眼科を受診しましょう。
それぞれの疾患については、こちらのサイトで詳しく解説していますので合わせてご覧ください。